読売新聞 医療 からだエッセー

明るいがん講座

(18)医療任せより生活改善

乳がん編

近ごろ、乳がんによる死亡数が、米国では減少し、日本では増加しています。

米国も、1980年代までは乳がん死亡が増えていました。年間の乳がん死亡は、90年に人口10万人あたり約50人になり、その後減少に転じて2000年に38人。10年間で2割減です。

日本では、60年代まで乳がん死亡は人口10万人あたり年間5人と米国の約10分の1でした。しかし、それから増加の一途で、2000年に10人を超えました。30年間で倍増です。

米国の専門家は、米国での死亡減少の要因として、「マンモグラフィー(乳房エックス線)検診の普及」と「薬物療法の進歩」を挙げています。90年ごろから、乳がん検診を受ける人や、抗がん剤とホルモン剤を併用する人が増えたことが、その根拠になっています。「良い医療の普及が患者の救命に貢献した」というわけです。

でも、私はちょっと違うと思います。日本でも、米国に少し遅れて、「薬物療法の強化」や「マンモグラフィー検診」が推進されていますが、乳がん死亡が減少する気配はありません。

実際、近年の日本で治りにくい進行乳がんの発生は増えていません。また、乳がん治療後の生存率も、米国より日本の方が良好です。つまり、検査や治療が不備なのではなく、単に、発生数が急増したから、死亡数も増加しているのです。

この点では、誰もが「日本人の乳がんは生活の欧米化で増加した」と口をそろえます。

しかし、生活の欧米化といっても、そこに含まれる因子は「食」だけをみても無数です。だから、「生活習慣の変化で乳がんが増えた」と日本人が実感しても、それを科学的に証明することは困難です。それにもかかわらず、皆が「生活習慣の変化が原因だ」と思うのは、多分、それが真実だからでしょう。

そう考えてみると、米国はまさに、その日本の裏返しです。

80年代以降の和食やオーガニック食材の流行。肥満防止や嫌煙、有酸素運動のブーム。日本が過去にたどったのと反対の方向に、米国の生活は向かいました。けれど、そのために乳がん死亡が緩やかに減ったとは、米国人に実感しにくいのでしょう。

しかし、急速な「乳がん死亡の増加」を経験した日本人なら、「医療以外のものが、乳がん死亡を増やしも減らしもする」という事実に、十分に気づけるはずです。

「医療の普及」だけが賢者の道のはずがありません。40年前の生活に明日戻ることはできませんが、自分の暮らしを見つめ直すことで、きっと、あなたが乳がんで命を落とす可能性は減るはずです。

そして、多分それは、医療による貢献をしのぐと思います。

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プロフィール

植松 稔  うえまつ・みのる
1982年滋賀医大卒。UASオンコロジーセンター長(厚地記念放射線研究所、鹿児島市)、ハーバード大・トロント大客員教授、慶応大非常勤講師。医学博士、放射線科専門医、乳癌学会専門医、放射線腫瘍学会認定医。肺がん三次元ピンポイント照射を開発。著書に「明るいがん治療」。


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